そんな我々に、デウス・バリの近くに住むバイク好きのニコが、1979年式のホンダ・スーパーカブC100のカスタムバイク製作を依頼してきたとき、私たちはすぐに、ニコがイメージするスタイルはビンテージじゃないってことを悟ったんです。新しい方向性が必要なんだって。だってバリの街角には、ヨガ教室からコワーキングスペースに向かうスーパーカブに乗った素敵な人たちをたくさん見かけるようになりましたから。そんな人々に埋もれてしまわない、新しい何かが必要なんです。
で、ニコが持ち込んだC100。なかなかにレアなモデルでした。そして何より、バリにある古いバイクでは珍しく、登録用の書類がすべて揃っていました。だから、完成したこのマシンは、イマドキでは珍しいカスタムバイクとなりました。
スーパーカブのカスタムと言えば、外装パーツの徹底的なダイエットが定番。レッグシールドを取り外すなど外装類を取り外して、フレームをすっきりと見せるってヤツです。でも、それはもう誰もがやっているメニュー。そこで、今回はまったく逆の発想でカスタムに臨みました。
70年代から90年代に世界中で人気になった、古いベスパやランブレッタといったイタリアン鉄スクーターのレッグシールドをじっくりと観察。それらがいかに丁寧にデザインされているかを知り、私たちはこのフォルムの再現することで、スーパーカブの新しいカスタムスタイルを造り上げようと心に決めました。だから、そのレッグシールドはプラスチックではダメ。鉄スクーターへのオマージュってことで、アルミで製作しました。鉄も考えたのですが、軽くて加工が容易なアルミを選んだんです。
Dylan、Arwin、Kokoのデウス・バリの3人のビルダーは試作を繰り返しました。最初はうまく行かずヤキモキしましたが、ようやく納得のいく形状にたどり着きました。だからこのバイクのシルエットは、アジアで生まれたというより、むしろイタリアの伝統からインスピレーションを受けたと言った方がいいかもしれませんね。アルミ板から叩き出したこの美しいボディは、金属加工の高い技術と豊富な経験によって誕生しました。カスタムのスタートは、意外にもライト類の選択から。いつもなら最後に選ぶパーツたちですが、このカスタムではオーナーのニコが、曜日も時間も問わず、アチコチ走り回る車両の製作だったため、スタイリッシュであることはもちろん、夜は明るく周りを照らし、対向車や後続車からの視認性も高いモノとういう狙いも明確でした。
そこで5.5インチの小型で、光量もバッチリのDaymaker製LEDヘッドライトをチョイス。あとは適切なハウジングを探すだけでした。それはハーレーダビッドソンの補器類にあるような小さなステンレス製のステーを調達して解決しました。しかし、テールライトは気に入ったものは見つからず、Kokoはアルミの固まりから旋盤で削り出し、特注品を作ることにしました。そしてArwinは、アルミ板から新しいサイドパネルを作ることになりました。
次はデザイン。デウスのロゴのアーカイブを調べ、その中から気に入ったロゴを金属で切り出し、車体前側とサイドパネルにデザインしました。ビレットのアルミ製フットペグの先端には、エッチング加工した小さなロゴも刻みました。
スタンダードのサドルシートは一人乗り用でカップルには不向きだったので、2人乗り可能なロングシートを造りました。シートベースは金属を加工し、そこにクッションを付けて、ライトブラウンのスエードで仕上げました。エンジン内部をすべてリフレッシュしました。シリンダーをボーリング加工して、新しいオーバーサイズピストンを入れました。さらに、新しいスライドピストン式のキャブレターを装着し、排気量アップしたエンジンに対応しています。排気管は、見た目も美しいピーシュータースタイルのステンレス製。素晴らしいサウンドを奏でています。
リアブレーキは新しいヤツに変更。フロントブレーキはディスク仕様にバージョンアップしました。グリップ周りにあるスイッチ類も一新。スポーク仕様のステンレス製TKリムには、クラシックなパターンのIRC製SP1タイヤを装着しています。
いよいよペイント。いつも頭を悩ませる難しい作業です。イギリスのレーシングカーが数多く採用したビンテージなレーシンググリーンをモチーフに、可能な限り、濃いグリーンを調色しました。
そして、ついに完成したのです。美しいアルミボディは、ペイントですべてを覆ってしまうのはもったいないのですが、その代わりに、所々に磨きこんだアルミの地肌を残しました。その上にクリスタルクリアを塗り、さらにパールホワイトを少量塗ることで、すべてが見違えるように美しく輝きました。