僕のブラジル by トム・ル・モン Tom Le Moing
僕が11際の時、学校で先生が、発表のテーマを決めましょうと言ってきた。その分野は、僕たちにインスピレーションを与えるものであれば何でもアリ。僕は、自分が何を選びたいかが完全にわかっていた。そう、それは「ブラジル」だ。サッカーファンである僕は、「アウリヴェルジ」(ブラジルの国旗。黄金と緑を意味する)の話をした。でもそれだけでなく、ブラジリアとその中にある飛行機の形をした街のこと、コルコバードのこと、アマゾンとその広大なコーヒー生産地のことも話した。もしもう一度同じことをやるとしたら、僕は再び全く同じテーマを選ぶだろう。でも今日は、ブラジルのビーチブレイクとそれに乗る人々についてちょっとだけ語りたいと思う。
マリシアス
10月11日、僕は今サンパウロに到着するところだ。ブラジルで一番大きな街サウンパウロ。そのあまりの大きさに圧倒されている。それは、まるで無限に広がる砂漠のよう。飛行機が滑走路を走り出すと、アレクサンドル (通称アレックス)から迎えのドライバーについて詳細が書かれたメールが届いた。ヴァレリアという名前の女性で、鮮やかな黄色のドレスを着て、「Tom Le Mong」(トム・ル・モン)と書かれたボードを持ってる人を探せばいいらしい。彼は、いつも僕の名前のスペルを間違える。
サンパウロ国際空港の到着ロビーで、僕は自分のバッグだけでなく、助けを必要としていた出会ったばかりのシングルマザーの3つのバッグと、彼女が押していたベビーカーと共に外に出た。赤ん坊と大きな荷物を押しながらヴァレリアを探してみる。でも、人混みの中で最初に目に入ったのは、なんと僕を驚かせようと計画していたアレクサンドルだった。僕は「見つけた!」と言ったけど、彼は混乱している様子。空港で赤ん坊を押している僕の姿を見て、逃げたいと思ったのかもしれない。僕たちが会うのは7年ぶりだった。前回は、以前一緒にデンマークで仕事をしていた時。僕はそこでサーフィンを教え、彼は僕らの友人のサーフカフェでコーヒーを入れていた。
サンパウロ市内から北海岸までの2時間のドライブは、話したいことだらけであっという間。お互い色々なことがあったけれど、何も変わってない。ほどなくしてマレシアスに到着し、そこでようやくアレックスの愛犬たち、ファビとコーヒーボーイに会った。
そして時刻は午前4時半。時差ぼけのおかげで目が覚めている僕は、最初のサーフチェックをしに外に出た。気合いを入れたわりに、ベッドから海辺までかかった時間はたった30秒。こんなに短かったのは初めてだ。マレシアスは5キロのビーチがある小さな街。ビーチブレイクの良い波で有名で、こぶりの山に囲まれている。これから3週間、ここが僕の住処になる。
この時期はまだ南うねりの波が多く、マレシアスで有名なパンピングバレルには乗れなかった。それでも、僕たちは近くにあるビーチでほぼ毎日、めちゃくちゃ楽しい波の上でサーフィンすることができたのだった。
島
旅の途中、アレックス は僕に彼の幼馴染のフランシスコ、通称「ティッチョ」を紹介してくれた。僕たちはすぐに打ち解け、5分もしないうちにティッチョは既に僕の親友の一人になっていた。そして、その夜はゲームナイトをすることに。ゲームをしながらジントニックを飲んだ後、アレックスとティッチョはあることを決心する。東風がやってくると同時に、マレシアスを出て、近くの島の一つにある秘密のサーフスポットへ冒険の旅に出ることに決めたのだ。
そこに行くこと自体がかなりの試練だった。1時間ほどのドライブの後、マイケルという地元の若者が操縦する高速船に飛び乗る。マイケルはぶっ飛んでいる男で、うねりも風も気にしない。彼はその小さなボートのポテンシャルを最大限に引き出し、変わりゆく天候に逆らって、25ノットを超えるスピードでボーとを走らせた。
そしてある時、僕たちはついに美しいビーチのある小さな湾に到着。この場所にはスーパーも店もなく、電話も通じない。そしてなんと、もしそういう場所に行きたければ、熱帯雨林を5時間もかけて歩くしかないという。幸運なことに、ティッチョの家族がビーチにこじんまりとした古い漁師の家を持っていたから、ベッド、冷蔵庫、コーヒーメーカーといった必要なものは全てそろっていた。
落ち着いてからすぐ、ここまでの激しい道のりの疲れを振り払うかのように、二人が僕を滝に連れて行ってくれて、そこでは僕が大好きな手付かずの真の自然を満喫することが出来た。そしてその帰り道。気がつくと、僕らの後ろにいたは蚊の大群。異常事態発生だ。まるで腹を空かせた小さな野郎達に背中をつつかれながら家に帰っているようだった。その時になって初めて、二人は僕に蚊の問題についておしえてくれた。どうりで現地の人たちがビーチでズボンと靴下を履いているわけだ。みんな、もっと早くおしえてくれよ!何も知らない僕は、裸足にボードショーツだけでビーチにいてしまったじゃないか。僕のフレンチ・ブラッドを惜しみなく地元の生き物に捧げたあと、僕らはサーフィンに出かけた。波はそれほど良くはなかったけど、蚊から逃れ、波のコツをつかむには絶好の機会だった。
翌日は、うねりがしっかりと埋まり始めたところで早起き。風はすぐオフショアに変わり、最高のコンディションを手にいれることができた。今、僕はやっと彼らが言っていたことを理解した。ここの波が素晴らしいのは、うねりが深い壁にぶつかり、それが壁から反響して次のうねりと合流し、美しいくさびのような状況を作り出しているから。僕たちは一日中、海にいた数人のサーファーたちと一緒に、グリーンの三角波をかわりばんこにサーフした。ここが自分のホームのように感じられた僕は、もう数日ここに滞在することを決心。しかしそれもつかの間、蚊との戦いに負けてしまい、マレシアスに帰らなければならなくなってしまった。その時までに、僕の身体は病気になるくらいたくさんの蚊にさされ、僕は泣きながら病院に行かなければならなかったのだ。
フェルナンド・デ・ノローニャ
ブラジルに上陸する2ヶ月前、アレックスはこう言った。「11月の初めにうねりがあれば、ノローニャにいけるかもしれない」。そして、僕がフランスに帰る1週間前になって、「トム、行けるぞ。フライトを変更しろよ」と言ってきたのだ。いや、確かにそろそろバゲットやクロワッサンを食べたいなとは思ってたよ。でも、ノローニャの評判は知っていたし、もう2度と行く機会がないかもしれないとも思った。人生一度きりだし、行くしかない。2日後、アレックスとティッチョと僕は、それぞれバックパックと数枚のボードを持って空港に向かっていた。
フェルナンド・デ・ノローニャは、ブラジルの北東部の沖合約200マイルに位置する小さな島々。世界で2番目に大きい海洋の真ん中にある小さな陸地だ。空の旅は最高!飛行機から見えるのは、「ペドラ・ドス・ドイス・イルマオス」という岩と、カシンバ・ド・パドレという黄色い砂浜、そしてその後ろに広がるブルーの海。何て素晴らしい眺めだろう!
空港を出るとすぐに、アレックスがもう一つのサプライズを用意してくれていた。島内を移動するために、バギーを予約してくれていたのだ。バギーとは、現地の人が乗っている小さな車のこと。でも、僕を驚かせたのはその車じゃない。もちろん車自体もクールだった。でも、びっくりしたのはその色。鮮やかなピンクだ。え、これに乗るの!?めちゃくちゃ気に入った!
アレックスは、この島にあるベネディータというレストランのパートナー。彼にはヴィニシウスとアランという2人の同郷の友人がいて、彼らは今ノローニャに住んでそのレストランで働いている。毎朝、メインの村を出てビーチに向かうと、ピンクのバギーでヴィニとアランをピックアップして、一緒にサーフィンに行くことになった。いつもはヒッチハイクで移動している2人のやる気は満々。約束のうねりは期待通りには来なかったけど、僕たちは一日中、毎日サーフィンをした。サーフィンをしない日は、ヴィニとアランがダイビングやロッククライミングに最適なスポットを案内してくれた。
その波の面白いところは、この時期、白い水の中をサメが泳いでいることだ。足元を泳ぐサメを見て、僕は「マジかよ…」と思った。もう一つ覚えているのは、僕がボードの上に座って波を待っていた時のこと。アレックスが泳ごうとしたら、僕たちの間でサメが大きな水しぶきをあげたのだ。普通だったら、パニックになって水からあがろうとするけど、ここの皆の反応は違う。地元の人たちはサメを気にしない。サメって、蜜穴熊くらい無敵で危険なのに。2歳の地元の子供がアレックスに、「サメは噛まないよ」なんて言ってる。結局、僕たちもそのうちサメに慣れ、僕はサーフィンをしすぎて、ボードショーツが擦れて出来た大きな湿疹が痛くてベッドで泣いた。
パラダイスで過ごすこと5日間。さあ、現実に戻る時間だ。皆仕事に戻らないといけなかったし、僕は自分のウェットスーツが恋しくてたまらなかった。ブラジル、またね!
読んでくれてありがとう。
トム・ル・モン
Until next time, Brésil!
Thanks for reading.
- Tom Le Moing.